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漢方セミナー、思春期つれづれ

[2019.08.30]

今週、日本医科大学内で開催された漢方セミナーへ講師としてお招きいただきました。

思春期にみられる症状に対して処方することの多い漢方薬について、ミニレクチャーという形でお話ししてきました。

主に文京区内の女性医師向けの会ということで、小児科や内科など様々なご専門の先生方がお集まりくださっていました。
女医ばかりの集まりということもあって和やか。私も話しやすく、参加者の方々からも質問が出やすい雰囲気で、楽しい時間でした。

 

会の冒頭には、形成外科のDrが尋常性ざ瘡(にきび)の治療についてご発表くださいました。
そのなかでとても印象的だったのは、にきびの治療をされるなかで、患者さんの軽い抑うつや不眠など、メンタル症状にも上手に漢方をお使いになっていらしたこと。
にきびは皮膚の病気ですが、ストレスや睡眠不足で悪化することもありますし、そのようにトータルに診ておられて素晴らしいと感じました!

 

さて、私のレクチャーの中でも強調したのが、漢方医学のなかでは「心身一如」と言って、こころとからだは不可分のものとして診ていくということです。

 思春期はまだまだ身体もこころも大人へと成長していく過渡期にあって、この年代のこどもたちは非常に心身ともにアンバランスな存在です。
身体と精神、心理が混沌、混然一体としていて「こころの辛さが身体の症状として現れやすい」状態にあり、漢方医学で言う「心身一如」と同一です。

 

頭が痛い、めまいがする、喉や胸が苦しい、お腹が痛い、下痢をする…などなど。

 

様々な症状の陰にこころの葛藤が隠れていても、それを言葉で表現することはまだ難しい、親にも先生にも友達にも相談できない。
そうなると身体がより一層辛さを訴えてくることになります。

身体の症状に対しては、身体に何らかの病気が隠れていないかを確認することが最優先です。
ただ、「一通り検査はしました、特に異常はないと言われました、お薬も飲んでいます、でも良くなりません」という段階で精神科・心療内科への受診となることが多いので、こちらで拝見するときの患者さんは、一般的な西洋薬による治療は受けられていることがほとんどです。

そのような時に漢方薬の出番があります。

 

もちろん、漢方薬を飲んでみませんか?と提案しても、味や剤型の問題で難しいこともあります。

ちなみに、「粉薬は飲めないんです」という方。お子さんに限らず大人でも、意外と多いです。そのこと自体が味やざらつきへの過敏さや「上手く呑み込む」ことが難しいような喉の違和感が存在するという症状なのではないか?と思う部分もあります。

少し面倒ですが、漢方薬はもともと煎じて飲む薬ですから、溶かして甘茶のような状態で飲んでいただくこともできます。
味については、小さいお子さんであれば喜んで飲むような甘いものからお試しいただくことが多いのですが、それでも飲めない方は飲めないですね。
その場合はいさぎよく漢方治療の選択肢は棚上げして、他の方向性を検討します!

とは言え、一般的なメンタルのお薬で症状や思春期の悩みがすっきり解決、ということもなかなかありません。

昨今、精神科・心療内科の敷居が低くなったこと、思春期の問題の陰に発達障害など治療や支援の対象となる問題が隠れていることが広く知られるようになったことから、中学生、高校生のお子さんの受診は増えています。
しかし、精神科医療のなかで主に行われる精神療法や薬物療法は、残念ながら魔法ではありません。
病院・クリニックへ相談に行けば何とかなる、というものではないのが実際のところです。

 

初診時は問題の把握、整理のためにそれなりに時間をかけてお話をうかがうことにしていますが、再診時以降はどうしても限られた時間の中での診療となります。時間も短くなりますし、頻度も多くて週に1回、通常は数週に1回でしょうか。

気持ちの上ではどのお子さんに対しても、人生のなかで思春期と言う時期の「伴走者」でありたいとは願っているのですが、お会いする時間からすると、「時々会う先生」くらいにしかなれませんね。
学校や家庭で過ごす時間に比べたらごくわずかの機会ですが、そのなかで何ができるかというと…

 

その時々でSOSを出してくる身体の症状にお薬で対応しつつ、

身体の症状が出現する背景にあるストレスや葛藤を思春期の『混然一体のこころとからだ』から少しずつすくい上げて、

対処方法を一緒に考えていくこと

 

になります。

 

親御さんに促されてでしょうか、「仕方なく来ました」という体のお子さん。

自分から病院へ行きたい、とSOSを出したお子さん。

身体の具合は悪くて困っているんだけど…でも別にストレスとかないし…何を話せばいいんだろう…と戸惑い顔のお子さん。

『親に無理矢理連れて来られたけど、話すことなんてないよ!』という空気をビンビン発しているお子さん。

 

診察室での初対面時、様々な表情に接します。

スムーズに会話が始まることもあれば、「別に…。」「さあ…。」「何となく…。」、時には「…。」しばし無言のことも。一朝一夕にはいきません。

自ずと数か月、年単位で関わることになりますが、それでも、それぞれのお子さん方が思春期を通り抜けて「大人になる」までの期間、人生のなかではほんのひと時のお付き合いです。
ご本人や親御さんにとっては、長く苦しい時間に感じられるかもしれませんが、必ずゴールはあります!

思春期の「荒れた青春の海」を渡るこどもたちに、漢方薬がサポートになりうる、とお伝えして締めくくったレクチャーでした。
(※以前、ブログに書きましたが、アンジェラ・アキさんの「拝啓~十五の君へ~」からの言葉です)

 

 

※思春期に発症することのある気分障害(うつ病、躁うつ病)や不安障害、統合失調症などへの治療は、向精神薬が中心となります。

※上記の内容は、あくまでも「思春期特有の心性・ストレスから起こりやすい身体の症状」への対応になります。

 

 

 

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