睡眠薬について
不眠の原因はさまざまです。
- 睡眠習慣の問題
- 睡眠リズムの乱れからくるもの
- ストレスによるもの
- うつ病などの精神疾患
- アルコールや薬の影響
- その他の身体疾患
(例えばアトピー性皮膚炎に伴う痒み、咳や鼻づまりなど睡眠を妨げる要因)
などが挙げられます。
まずはこういった原因を確認し、何らかの原因疾患があればそちらの治療が必要となることもあります。
睡眠習慣やリズムの問題であれば睡眠リズムを見直し、睡眠衛生上のアドバイスやリラクゼーション法の指導など、睡眠薬による治療の前にできることを考えます。
薬による治療を選択する場合は、不眠の原因、状態に合わせた薬を検討することになります。
現在、睡眠薬(睡眠補助薬)として広く使われる薬には以下のようなものがあります:
1)GABA受動体作動薬(ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)~ 脳の興奮を抑える薬
脳の興奮を抑える作用のある「GABA(ガンマ‐アミノ酪酸、ギャバ)」という神経伝達物質があります。
このGABAの作用を強めることで脳の活動を抑え、眠りに導くのがGABA受動体作動薬です。
薬の構造によって
① ベンゾジアゼピン系睡眠薬(以下、BZ)
② 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(以下、非BZ)
に分けられます。
①のBZ系睡眠薬は日中に服用することもある抗不安薬と同じ構造の薬ですが、作用の強さや持続時間の異なる各種薬剤が存在します。
深く、長く効くものは麻酔薬、麻酔前の鎮静の薬としても使われます。
反対に軽く、短く効くものは入眠を助ける薬として。
中程度の作用を持つものは、中途覚醒や早朝覚醒の見られる場合も朝までの眠りを助けます。
具体的な薬としては、
トリアゾラム(ハルシオン®)
ブロチゾラム(レンドルミン®)
フルニトラゼパム(サイレース®)
などが挙げられます。
超短時間~長時間型まで種々の作用時間の薬剤があり、目的に応じて使い分けやすいのがメリットですが、連続して服用を続けていると効きづらくなる(耐性)、服用しないと眠れない(依存)、中断や減量でかえって眠れなさが強まる(反跳性不眠)を起こしやすいのがデメリットです。
②の非BZ系睡眠薬の方が身体依存を来しづらいとされていますが、長期に連用するとやはり効きづらくなったり、反跳性不眠(薬を減らしたりやめたりした反動でかえって眠りづらくなること)も生じ得るため、注意が必要です。
具体的には、
ゾルピデム(マイスリー®)
ゾピクロン(アモバン®)
エスゾピクロン(ルネスタ®)
の3種類があります。一般名Zolpidem, Zopiclone, Eszopicloneがいずれも"Z"の頭文字(Eszopicloneはzopicloneの異性体)であるため、"Z-drug" , Z系睡眠薬と総称されることもあります。
いずれも「超短時間型」であり、主に寝つきを改善する効果があります。
2)メラトニン受容体作動薬 ~ 睡眠のリズムを整える薬
睡眠に関わるホルモン「メラトニン」と同様の働きをする「メラトニン受容体作動薬」というお薬があります。
ラメルテオン(ロゼレム®)
です。
人間の身体は、朝の光を浴びることで体内時計を調整しています。
生活習慣が極端に乱れている場合や、光を取り入れづらい環境、もともとの体内時計のずれなどから睡眠と覚醒のリズムが障害されているような場合には、通常夜眠くなる時間帯にかけて増えてくるはずのメラトニンの分泌がうまくいっていません。このため、メラトニン(海外ではサプリメントとして販売されています)もしくはこのメラトニンと同様の働きをするラメルテオンを服用することで体内時計を整えます。
ところがこのラメルテオン、通常の用法用量(就寝前に1錠、8mg)では、リズムを整える作用よりもかえって日中の眠気などの副作用が強く出現してしまうことが多いのです。
このため、服用時間や服用量に注意を払う必要があります。
思春期~青年期の若い世代や不規則勤務などでの睡眠リズム障害に用いることが多い薬です。
3)オレキシン受容体拮抗薬 ~ 覚醒のスイッチをオフにするような薬
スボレキサント(ベルソムラ®)
レンボレキサント(デエビゴ®)
現在、最も新しいタイプの睡眠薬です。
1)の①、BZ系睡眠薬では依存や耐性、反跳性不眠のリスクが高いため、1)の②、非BZ系睡眠薬の方がより安全に使用することができるとされています。
ただし、非BZ系薬剤でもBZ系よりは少ないとは言え同様のリスクがあります。
また、超短時間型の薬剤であることから、入眠障害への効果は期待できても、中途覚醒や早朝覚醒に対して効果が不十分なこともあります。
これらのデメリットがなく「依存・耐性・反跳性不眠などを来さず」「寝つきから朝まで十分な時間、効果を発揮する」お薬として期待されているのがこのオレキシン受容体拮抗薬です。
脳内で覚醒に関わるオレキシン受容体に作用し、覚醒のスイッチをオフにすることで自然な眠りに導く働きがあります。
依存形成もないため、1)のタイプの薬剤のような処方日数の制限もありません。
ところが、従来の薬のデメリットを全て吹き飛ばすような「夢のお薬」出現とはいかないのが世の常とでも申しましょうか……。
睡眠改善の効果を自覚するまでに、数日から1週間程度かかることがあります。また、これまで1)のBZ・非BZ系睡眠薬を継続服用していた場合、急な中断は望ましくないため、まずはオレキシン受容体拮抗薬を上乗せして服用し、徐々に切り替えていくのにある程度の期間を必要とします。
それから、個人差が大きいのですが、日中に眠気が残ることがあります。このため、飲み始めの用量や服用のタイミングに調整が必要となることがあります。
なお、レム睡眠の増加により夢を見ている時間が長くなることがあります。人によっては悪い内容の夢が増えたと感じることもあります。頻度はレンボレキサント(デエビゴ®)の場合で1.4%と報告されていますが、1)2)のタイプの睡眠薬に比べて多い数字です。
4)その他 ~ 漢方薬
睡眠補助のために漢方薬を用いることもあります。
東洋医学では、身体を構成したり栄養したり動かしたりするものを「気・血・水(き・けつ・すい)」と呼んだり、身体の各役割を「五臓(心・肝・脾・肺・腎)」が担っていると捉えたりします。
睡眠に関しては、「肝」や「心」(西洋医学の肝臓や心臓とは全く別の概念です)を落ち着かせることが重要と考えられています。
例えば、
- 「肝気(「疳の虫」の「肝」ですね)」が高ぶっていると眠れない→「肝」を抑える
- 精神活動や睡眠の安定(「安神(あんじん、と読みます)」)のためには「心(しん)」の充実が必要→「心」を栄養する
ことを目標にします。
そのように働く生薬の組み合わせ(処方)には、以下のようなものがあります:
- 抑肝散(よくかんさん)
- 酸棗仁湯(さんそうにんとう)
- 加味帰脾湯(かみきひとう)、帰脾湯(きひとう) など
他にも、不眠に対して選択する処方は体質に応じて様々です。漢方薬の特徴として、睡眠の問題に伴う他の症状(例えば夢見が悪い、寝汗や夜間尿など)についても配慮しながら睡眠そのもの改善に向けて調整していきます。
※ 写真は生薬のイメージです。当院では煎じ薬ではなく、医療用漢方エキス製剤(粉薬もしくは錠剤)を処方しています。