漢方のお勉強&セロトニンのお話
早いもので、5月の週末ももう最終。
この日曜日の午前、漢方の勉強会に参加してきました。
今回の勉強会は、女性外来担当医師向けの漢方セミナーで長年お世話になっている、S先生のご講演。
関西で開業されている先生なので、都内でお話をうかがえるのは貴重な機会です。
心身症について、心療内科領域での漢方薬について、普段よく処方する漢方薬の効果を高めるちょっとした工夫や、難しいケースにどのような対応をしていくかなど、たくさんのヒントをいただきました。
さて、会場が皇居のすぐ近くだったので、帰りに和田倉噴水公園へ少しだけ足を伸ばしました。
和田倉橋を渡ろうとしたら、欄干に鳩が鎮座!
遠目には欄干の飾りかな?と思ってしまうくらい、身動きもせず色合いも擬宝珠とそっくりでした。
真夏のような日差しのなか、噴水が涼し気にきらめく様子を眺めながら散策してきました。
皇居ランナーもたくさん(遠目ですが)。
ところで、日差しをたっぷり浴びて散歩してきたこの機会に、うつや不安に関わる重要な物質「セロトニン」について書くことにします。
当初は、漢方セミナーの話題からの流れで漢方薬や東洋医学について書こうとしたのですが、それは後日。
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「セロトニン」のお話
適応障害やうつ病などで「うつ状態」にある患者さんや、不安障害や強迫性障害など不安や強迫症状が強い患者さんに抗うつ薬による治療を開始する際に、「セロトニン」のお話をして抗うつ薬の作用を説明してから処方するようにしています。
抗うつ薬の多くは、脳内の「セロトニン」が十分に作用できるようにリサイクルするような働きがあるからです。
セロトニンとは、思考や情動をコントロールする脳内の神経系のなかで、神経から神経へ情報をバトンのように受け渡していく働きをする「神経伝達物質」です。
セロトニンの量が少なくなってこの「バトン渡し(情報伝達)」がしっかりとできないと、欝々とした気分になったり、思考がスムーズにいかなくなったり、不安になったり、不眠、食欲の低下が起こったりと、様々な抑うつ・不安症状を引き起こします。
また、強迫症状(強迫観念・行為など、「強いこだわりを持ってしまう」「本当は意味のないことと感じていて止めたいと思っているのに止められない」といった症状)にもセロトニンが関わっています。
そもそもこのセロトニンを体内で十分に生成するためには、その原材料となる必須アミノ酸である「トリプトファン」(バナナやプロセスチーズ、豆乳などに多く含まれる)を食物から取り込むこと、太陽光を浴びること、適度な運動(規則性を持つリズミカルな運動が良いとされています)が必要です。
一日三食バランスの取れた食生活をしていれば、このトリプトファンを十分に栄養として摂取することはできるはずです。
しかし、クリニックで拝見するうつ状態の患者さんへ普段の食事の状況を確認すると、
「朝は食べません、昼は仕事の状況で食べたり食べなかったり、食べてもせいぜいおにぎり1-2個かサンドイッチくらい……夜も疲れて帰ってくると軽く済ませます。」
……というお話をよくお聞きします。
仕事に家庭に学校に忙しくしている現代人にはありがちな話ですね。
もちろん、既にうつ状態に陥っていて食欲が低下した結果、十分な食事量が確保できていないケースもあるのですが、うつ状態にまで陥る前の普段の食生活も上述のような状況である方が目立つのも事実です。
クリニック外でも、産業医の仕事で健康診断後の面談や長時間勤務の方の面談など社員さんとお話をしていると、そういった食生活をしていらっしゃる方々が多いのです。
いつメンタル不調、いえ身体的な不調に(ビタミン不足など栄養失調ともいえる病気は過去のものではありません!)陥らないかと心配しています。
働き盛りの世代のみなさん、脳と身体を動かすには十分な栄養が必要だということを肝に銘じてくださいね。
ちなみにセロトニンの生成には、上述のトリプトファンだけではなくビタミンや鉄分も必要となります。
また、脳内ではセロトニンだけではなくドーパミンやノルアドレナリンなど他の神経伝達物質も働いています。
「トリプトファンのサプリメントさえ摂取していれば万全!」なんてことにはなりませんので、ご注意くださいね。
さて、明らかなうつ状態にまでは至らなくても、冬場や梅雨時、雨や曇りの多い時期などに気分が冴えなかったり、どうも身体が怠くて仕方がない、といった自覚をお持ちの方は案外多いのではないでしょうか。
「季節性うつ病」といううつ病のひとつのタイプがあり、特に「冬季うつ」は冬場に日照時間が極端に少ない高緯度地域(北の方ですね。
日本では北海道・東北・北陸地域で他の地域に比べて発症率が高いとのデータがあります。)で多くみられると言われますが、屋内にこもり切りでデスクワークをしているような人は地域・季節を問わず日照不足&運動不足という、セロトニン不足を招く悪条件が揃っているようなもの。
少しの時間でも外に出る、デスクを離れることを意識したいですね。
そういう意味では、一日中診察室で座っている医師は不健康。
前回のエントリーでも書いた気がしますが、医者の不養生にならないよう心がけます……。