漢方のお勉強の話(続き)
忘れないうちに、漢方の勉強会に参加してきた話の続きを書きます。
開業前後は何かと慌ただしくしていたこともあり、勉強会はずいぶん久しぶりでした。
医師として仕事をしていると、セミナーや講演会、もちろん学会など「勉強」の類と縁が切れません。
いわゆる「勉強会」というと、新薬の紹介や治療法の進歩など情報のアップデートという側面が大きく、「最新の情報を仕入れた!」「最近の動向がわかった!」という感じがするのですが、漢方の勉強会ではまさに「温故知新」という言葉がぴったり。
高校生の頃に習った漢文の訓読の知識を引っ張り出しながら古典の医書の抜粋を読むこともあれば、臨床的にも薬理学的にも最新の「エビデンス」が紹介されることもあります。
会によっては、かなりマニアックかもしれません。
医師の中でも漢方には好き嫌い(嫌い=漢方なんて効かないだろう、処方しません!というスタンス)がはっきり分かれるのもわかる気がします。
こればかりは相性でしょうか……。
漢方の勉強を始めてみると、本を読んでも講義に出席しても、使い慣れない漢字や長ーい名前の処方、聞いたこともないような東洋医学の用語のオンパレードにさらされました。
でも私の場合はあまり苦にならず、「トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ」や「ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ」といったまるで呪文のような言葉でも、意外とすんなり頭に入ってきていました。
周囲のDrのなかには、
「よくそんなに漢方薬の名前がすらすらっと出てくるねえ~、西洋薬の名前だったらすぐ覚えられるんだけどね~。」
とおっしゃる先生もいらしたのですが、私にとっては西洋薬の商品名と一般名のカタカナを二本立てでインプットする方によほど苦労させられたので、向き不向きがあるのだと思います。
ところで私の漢方薬との出会いを思い起こしてみると、実は子供のころにまで遡ります。
自宅近くに漢方薬局があり、その前を通るたびに不思議な匂いがしたこと、何やら怪しげなもの(生薬)がガラス瓶に入っているのをおそるおそる覗き込んだこと、それから父親が飲んでいたらしい「朝鮮人参」の粉薬をみて、「人参」なのにパッケージのイラストは何だかマンドラゴラみたい……と子ども心に不思議に感じたことなどが思い出されます。
中学生の時には、アトピー性皮膚炎を患っていた友人が煎じ薬をマイボトルに入れて持参していました。
「美味しいよー」と言われて味見させてもらったのに、強烈に不味かった覚えがあります。
さてそれから時を経て医大生となり、東洋医学の授業に接したのが漢方との再会でした。
今でこそ医学教育カリキュラムのなかで東洋医学は必修とされていますが、私が医学生だった当時はそうではありませんでした。
東洋医学に触れる機会があったのは少数派だったと思います。
ただし、私の卒業した大学では、伝統的に東洋医学の講義を受ける機会がありました。
講義の折に先生が紙コップに入れた煎じ薬を持ってきてくださったり、実習の際に数々の生薬の実物や「薬研」という生薬をすりつぶす道具を見せていただいたりと、東洋医学や漢方薬に親しんでいました。
とは言え、学生の頃に学んだ知識などほんの僅か。
医師となってからは、実際に漢方薬を処方する機会はほとんどなく過ごしてきました。
時たま患者さんからの求めに応じて、漢方の便秘薬をお出ししていたくらいでしょうか。
それが10年ほど前に女性外来を担当するようになってから、「不定愁訴」と呼ばれるような多彩な症状にお悩みの患者さんを拝見することが多くなりました。
西洋薬だけでは対応しきれないケースに直面して悩んでいた折に、タイミングよく漢方のセミナーに声をかけてもらったのが、本格的に漢方を勉強するようになったきっかけです。
目の前の患者さんがお困りの症状が何とか良くならないか、いわば必要に迫られてのことなので、その当時がいちばんセミナーにも参加したし、本もたくさん読んだし、勉強したなと思います……。
患者さんの症状、所見(漢方医学では「四診」と言って、舌や脈、お腹の診察も行います)などあらゆる情報にアンテナを張り、その時点で学んだ知識を総動員して処方を選択し、効果を確認する。
そうすると患者さんの症状が確実に改善していくのを実感し、ますます漢方の勉強が面白くなっていきました。
様々なご縁から、よき師に巡り合えたのも幸いでした。
漢方を学んでいると、漢方医学は徹底して「治療」に重きを置いた医療であり、その方個人の来歴、体質、病状を様々な角度から把握して対応しようとする全人的な医療だと実感してきました。
「実際に様々な症状に困っているのに検査では異常なし、診断も不明と言われた」というケースであっても、患者さんの訴え・症状・体質・精神・心理的な側面を汲み取りながら、その方のお困りを楽にする治療法(処方)を考えていきます。
当然、身体的な症状だけではなく精神面、心理面にも着目します。
そういう意味では、Bio-Psycho-Socialの3つの側面から患者さん、病像を把握して対応しようとする精神医療と通じるところが大きいと感じます。
開業してちょうど半年、身辺少しずつ落ち着いてきて各種勉強会に参加する余裕がでてきました。
漢方に限らず、診療に欠かせない知識のアップデートの機会を増やしていこうと思っています。