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味覚障害~亜鉛から漢方まで

[2018.09.05]

9月に入り、これから実りの秋、食欲の秋のはずですが……この夏は各所で自然災害が相次ぎ、実りを待ちわびていた方々がお辛い思いをされているかもしれないと思うと心が痛みます。

誰かが手をかけてくださった農作物が食卓に届き、心身ともに健康な状態で美味しくいただける。それはとても幸せなことですね。

 

ところが、うつ病やうつ状態、ストレス性の症状などでは味覚の低下が起こることがあります。
意欲の低下に伴い「食べる気にならない」という食欲低下とは異なり、「お腹は空いて食欲はあるのに、食べても味がわからない」「味を感じられない」ような味覚低下です。
「砂を噛むような」食事とか、まさに「味気ない」と表現されるような感覚です。

例えばカレーなどの辛いものが辛いということは感じられても、繊細な出汁の味がわからなくなったなどと説明される方もいらっしゃいます。

もちろん食欲低下と味覚低下が両方とも生じることもありますが、食欲はあるのに「何を食べても美味しくない」となるとまさに味気ない食事となり、そのうちに食欲の低下にもつながってしまいます。

 

さて、この味覚低下や味覚消失が起こる「味覚障害」ですが、様々な原因が考えられます。
代表的なものとして亜鉛の不足や唾液分泌の低下の他、パーキンソン病などの全身疾患に伴う症状として現れることもあります。

味覚の異常を主訴に医療機関を受診すると、まずは亜鉛不足を疑って血液検査で血中亜鉛濃度を調べ、値が低い場合は亜鉛を補充する飲み薬が処方されることが多いはずです。
ただし、亜鉛の濃度がそれほど低くなくても。亜鉛の補充で症状が改善することもあるようです。

歯科口腔外科では、口腔内のしびれなど味覚異常以外の症状に対しても亜鉛が処方されることがあり、症状の緩和につながるケースもあるとのこと。

 

ところでうつ病などの精神疾患に対し、抗うつ薬などでの治療を一定期間続けていてもなかなか回復が進まない場合にも、亜鉛濃度を測定して補充療法を併用することがあります。
亜鉛や鉄などのミネラルが、脳内での神経伝達の安定に役立っていると考えられているからです。

 

話が脱線しますが、過去に、乳がんの術後に倦怠感や意欲低下が続き、うつ病を疑われてうつ症状として紹介されてきた患者さんが重度の貧血とわかり、鉄剤の服用ではとても間に合わないと判断して鉄剤の注射をしたところ、ぐんぐんと元気になられたということがありました。

これはあくまでも、貧血が強いと精神疾患と間違われるくらいの不調となる一例ですが、女性の不調を診たら貧血の有無は要確認と思っています。
健康診断などで貧血や「貧血気味」との指摘があった場合は、放置しないようにしましょうね。
鉄欠乏性貧血であれば鉄剤の服用や鉄サプリメントの利用、基準値ぎりぎりといった予備軍では、まず日々の食事で鉄分摂取を意識しましょう。

 

……味覚異常の話に戻ります。

 

味覚低下が続き、内科から亜鉛を処方されて服用しているが改善がみられない……というケースに時々遭遇します。
そんなとき、明らかにうつ状態が強ければ標準的な抗うつ治療を行いますが、そこまで抗うつ薬を開始する緊急性はない、という場合に漢方薬が効果的なことがあります。

 

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

加味帰脾湯(かみきひとう)

 

このいずれかを処方することが多いです。

 

いずれも不安やうつに対して処方されることのある漢方薬ですが、補「中」益気湯、加味帰「脾」湯の「中」「脾」とも、東洋医学的には消化機能を表しています。「中」は、お腹の「なか」、ですね。

補中益気湯は、「消化機能を補って、元気を益する」。
元気をつけるご利益がありそうですね(実際、元気をつける方向の処方です)。
エネルギーが低下して鬱々として味も感じづらい、食欲も落ちて元気がないような場合はこちら。

加味帰脾湯は、「帰脾湯」という処方にプラスアルファの生薬が「加味」されたものです。
「帰脾」は「脾(消化機能)」を本来持っている機能に帰す、戻すという意味合いでしょうか。
では何が加味されているかと言うと、イライラ感などを和らげる作用。ですからストレス要因があってイライラ感が強いような状態、そんな時の味覚低下にはまずはこちらを選択しています。

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